海外勤務も2社目、2カ国目ですが
職歴と同じくらい大事だな。と最近感じたスキルのお話です。
”アンガー・コントロール”って知っていますか?
東南アジアではそこそこ知られるコレ。
要するに、怒りのコントロールです。
よく、微笑みの国、タイ人は怒らない。とか
マレー人はのんびり温厚で怒らない。とか聞きますね。
実際のところ、やっぱり全然怒らないです。
もちろん怒る人はいます。ただ、少ない。
文化として怒りは恥。という認識がある印象で、マレー人がダントツですが全体的に怒らない人が多いです。
そんな中で、仕事だけではなくアンガー・コントロールも前職のマレー人の”アバン(アニキという意味)”から、聞いて、見て、真似して教わりました。仕事だけではなくどこでも役立っています。
怒りはタブー。そんな温厚なマレー人の横に(彼が退職するまで&復職してからの)2年半、週5日、約10−12時間、毎日ずっといろんな話をしながら勤務していて気がついた、怒らない東南アジアの人のアタマの中を紹介します。
1. 大前提:見える怒りはバカの象徴、恥ずべきこと。
まず、小手先のテクニックより、この大前提が大事です。
誰でもイラッとすることは平等に起こる中で、本当に正しいことは大きな声でなくても正しいのだから伝わるのです。
なので、怒りに身を任せて大きな声を出した地点で、その意見は間違っていて、相手を説得するアタマが足りないから怒らなければいけない、可哀想な人。なのです。
そして、言ってることが何であれそんなバカの言うことは間違っているという共通認識があるので、そんな奴にはなりたくない。と一歩引いている、ストレートに言うと、相当バカにされているのです。
2. 大体のことは怒った時点でかえってこない
昔、郵便物を無くされ、郵便局から”何千個も荷物があって忙しいのに君の荷物の相手をしている時間なんてない”と電話口で笑われたのでイラッときて結構荒い口調で戦ったことがありました。
電話を切った後、アバンが(結構派手に)笑いながら
”怒っても荷物はこない、怒らなくても荷物はこない。
エネルギーの無駄遣いはやめようぜシスター!”と肩を叩いてきました。
過ぎたことへの怒りは、表した時点でかえってこないので無駄で面倒なんだからもういいじゃん。という発想です。
3. クレーム、注文は温厚に言った方が通りやすい
見せない怒りの美学がここにも。明らかにこれはダメでしょ。と思った時こそ温厚に。そうすることで、怒りに身を任せたクレームよりも通りやすいのです。
”怒ったり文句を言ったりすると、それの処理とそれに対するその人の中の怒りの処理で相手の仕事がテキトーになる。
何か文句を言いたい時は、できるだけ印象を良くして文句の内容に集中してもらうの。
相手も怒られていないので、反発心よりも先に”ゴメンね”の感情になって、逆にサービスしてもらえる。”
無駄な争いを避けて希望を通す近道。面倒なことが徹底的に嫌いな人種ならではの戦略なのです。
4.怒りのオツリがもらえる
相手がやらかした時、本来怒られるはずのところで怒られないと、
相手は”あれ?”ってなって、罪悪感でいいことしてくれるのも東南アジア人の特徴。
突然会議が立て込み、車で迎えをお願いされたから来たのに数時間外で待ちぼうけを食らったアバンの奥さん。
”大丈夫、待ってるよ、気をつけてね”という文章とともにサブウェイのサンドイッチの画像を送りつけてきたそうで、
”俺がマイナス1で、相手が怒ったらマイナス1同士、ゴメン!となだめて精算だったり、こっちも仕事だったんだよ!のマイナスの投げ合いに発展するかもだけど、こうやって温厚に対処されると、俺だけがマイナス。要するに俺はこの画像のサンドイッチを確実に買ってあげなきゃいけなくなる。会議で俺も被害者なのに…。”
と平和な愚痴をこぼしていました。
5. エラそうなやつには、へり下ることで勝つ
とっても上から目線なとあるおじさんを見て一言。
”たまーにいるんだよ、すげー高圧的だったり、完全に見下してくる奴。
そういう奴って負けず嫌いだから張りあうといいことないし、そこで勝ったところで賞品もないんだからさ、とりあえずへり下っといていい気にさせて面倒な仕事お土産にもたせてやればいいのよ。
そしたら相手は自分が勝ったと思ってるけど実はこっちの勝ちじゃん。あぁ、やっぱあいつアホだった。って。”とのこと。
自分が!自分が!タイプの人に、ちっぽけなプライドと全責任をお譲りします。
6. 機嫌の悪い人の原因を下ネタで笑いに変えてみる
会社のトイレを使おうと思ってドアを開けたら、”掃除中だ看板見えないのかテメェ!”と掃除のおばさんがモップを投げてくる珍事が発生し、ちょっと聞いてくれよ腹立つわあのおばちゃんとアバンに愚痴ると
”まぁ怒るなってシスター。多分そのおばさん昨日の夜『シテもらえ』なかったから機嫌悪いんだよ”
と笑いに変えられ、その発想いいねというと
”こいつなんで怒ってんだ?ってイラッとした時に勝手にそういう系のことを思ってると、なんか可哀想ってか面白くなってくるからオススメよ”。
とのこと。相手の負の感情に巻き込まれないシュールな防衛策です。
7. 宗教もちょっと関係しています
マレー人の怒りの感情は負け。の認識の裏には、イスラームの教えの『ジハード』があります。
(※ジハードを誤解している人は多いですが、誘惑に負けずにより良い人間になるために我慢、精進する自分との戦い。というのが本来の意味です。テロのことじゃないよ。)
怒りや欲の負の感情は誰にもある中で、あえて見せないのが高貴なイスラームの誇り。
より良い人間になって神様に愛されたい。というのもモチベーションのひとつ。
イスラームの他にも、東南アジアではカルマも広く信じられています。
8. ただし注意、それでも奥深くは煮えたぎってます
上の7つでお気付きかもしれませんが、彼らは”怒らない”のではなく、”怒りのコントロール、見せないのがうまい”というだけで、怒りの感情はきちんと持っています。
(7)でも触れた通り、神まで使って怒りを鎮めているのです。
なので、この人たちは怒らないという感覚は危険です。
ちゃんと彼らも怒ってますし、覚えてますし、コントロールしている過程で内心相当バカにしています。
しばらく一緒にいて気付いたのが、愛想笑いと、コントロール中の笑いと、忍耐笑いの違いがきちんと目の奥に現れています。
ヘラヘラしてると思っても、この人たちの性質を知った上で目を見てみるとビビるくらい恐ろしい殺気見えてくるはずです。そして意外と大声で怒られるよりそっちの方が怖かったりします。
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また、マレーシア人を部下や後輩に持つ時に
たとえその人に全く関係ない人が相手だったとしても、人前で絶対に怒ってはダメです。
(マレーシア流仕事術などでも過去に何度かお話ししていますね。)
人前で怒った時点で、アンガー・コントロールのできない使えないバカ扱いなので、確実に言うことは聞いてもらえなくなりますし、聞いてもらえたフリはしても一度置かれた距離を取り戻すことはほぼ不可能です。
怒った時点で、”バカ、間違い、使えない、非効率、負け、神様にも愛されない、多分昨日シテもらえなかった”のレッテルが一気に貼られる。となると、確かに怒りのリスクが高すぎるし、無駄、目に見えた損しかない。という発想になりまぁ落ち着けと笑い出すのです。
怒りを鎮めるテクニックもさながら、根本として、”メリットがない”ので怒らない。
温厚でのんびりした”面倒くさがり”のマレーシア人をはじめ東南アジア人の怒りに対する考えは、聖人君主や幸福論とかではなく、リスクヘッジと効率から成り立っている結構冷静なものなのです。
とはいえ、いいことも多いアンガー・コントロール。
たまに忘れることもありますが、イラッと来た時に思い出してみてください。
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