日本に生まれ、日本で育ち
身近な人の長時間労働や過労による病気なんかもたくさん目の当たりにしてきて
ニッポンのサラリーマンなんて、もうおしまいだと思っていた。正直、今も思っている。
そんな中、日本から7000km離れたマレーシアで
あえて“ニッポンのサラリーマン”になりきり、
日本スタイルのビジネスを熟知し、日本の働き方に合わせ
周りが自分のことをニッポンのサラリーマンとして扱ってくれることを誇りに思い
いかにニッポンのサラリーマンがすごくて、それを誇るべきかを教えてくれた人がいました。
彼は、とある世界中に展開している日系の工場の営業部長、兼工場長。
もちろんマレーシアではいちばん偉い人で、日本の本社のマネジメントにも参加している。
現地工場を現地人が唯一運営していて、どうして日本人じゃない彼がここまで日本のビジネスを熟知しているのか。と日本人の間で話題になるほど。
しかも彼は日本語を喋れない。
日本人と長く過ごしているので、日本人が何の話をしているのかは表情や声のトーンで大体わかるとのこと。
とはいえ、マレーシアの日系企業はほとんどの大事な要件は日本語。
そんな中で日本語を話せないで、自分の営業の顧客も全員日本人なのに、日系のトップに君臨しているのが、さすがに不思議で仕方なかった。
日本の働きかたが嫌いだった私は、思い切って彼に直接聞いてみた。
ーなぜ、そんなに日本式のビジネスを熟知して、ずっと居られるんですか?と
その回答はシンプルで、彼はニッポンのサラリーマンをおそらく日本人以上に誇っているからだった。
“日本のビジネスマンは、正直で誠実。信用を教えてくれたのが、この会社だった”
“元々、私はライン工の出でね。普通の中華系や他の国の会社だったらただのライン工が工場長にはなれないんだよ”
“日本人が、頑張る私をみて、本来自分のやる仕事よりもちょっと重いものを一個くれた。
私はそれを頑張ってこなした。任せてもらえたのが嬉しかったから。
そうしたら、みんな喜んでくれてもう一個新しいことをくれた。
だから自分の製品を必死に勉強した。
そうしたら、またみんなが喜んで、今度はオフィスに入るようになった。
だから営業というビジネスを勉強した。
ライン工だから、製品知識には自信があった。そんな風に頑張ってたら、26年後に工場長にまでしてくれたんだ。“
―ただ、その責任が積み上がって最近長時間やら過労で問題になってるじゃないですか?
“HAHA, BLACK COMPANYネ。知ってる知ってる。
ニッポンの働きかたはクレイジーだよ。正直働きすぎている人もたくさん見たし、それは賛成しない。私の知ってる日本のサラリーマンは、家族第一なはずだよ。
間違えないで。本来ニッポンのハードワークは、自分たちの熱意や信頼を実現させるために熱中してたら長時間になるけど気にしない。みたいな感じだと思うよ。
嫌々やるのは違うと思うし、利益はもちろんだけど、そのハードワークは信念からかは大事よね、
だからちゃんとリターンも出るし、自分も会社を我が身のように見ることができた。ここまで来ると楽しいよ。
仕事も、生きる上でも、一番大事なのは、Enjoy your lifeね。
いいモノ作ろうぜ!でみんなが真剣になるのが好きで、気づいたら一つの会社でサラリーマン28年やっちゃってたんだよ。
ニッポン以外で、ここまで誠実なビジネスマンたちは滅多に見ないんだ。
会社のことをまるで自分のことのように真剣に行なうの。
無茶は言われるけど、熱意とこだわりからくる無茶はね、できる範囲で必死に協力すれば結果はどうであれ会社単位で絶対にその分の信用を返してくれる人がほとんどだよ。
人が変わらないから個人の信用が会社の信用になるのはニッポンの会社はほんとうに顕著だからね。この義理人情の信頼商売がたたき上げの私には誇らしくって。
“あなただから”で初挑戦の大きなプロジェクトとかもらえるの、ワクワクするんだよね。”
”あと、日本の会社はみんなを家族みたいに扱ってくれる。
多少難しいことがあっても、みんなが一緒に支えてくれる。
私は従業員、ライン工の出稼ぎも全員呼んで、1年に1回そこそこいいホテルで大パーティを開いているよ。数百人。すごい出費。
でもね、元ライン工だったから解るんだけど、偉いおじさんが末端とか関係なく一人ひとりに、君が会社を支えてるんだ、ありがとう。ってちゃんと言ってご飯をご馳走するのがニッポンの会社のいいところだからね。“
―すごく綺麗に話してくれて嬉しいんですけど、最近の日本の問題を見ているとそうには思えなくって。
“今は利益!利益!コストダウン!みたいになってるけど、
それでも私みたいな古いおじさん世代はね、新しいものを作ってまたみんなを喜ばせて会社を伸ばそう!みたいに考えちゃうのよ。
だからたまに頑張っているライン工にはチャンスをあげたりするよ。私がそうやって登った立場だから、彼らをばかにしちゃいけない。
頑張っていれば、チャンスは均等。ハードワークが勝つのがニッポンの会社の素晴らしいところだから。
何も持ってなくても会社をよくするために色々考えている人がのし上がれるチャンスをくれる日本の忠誠心が好きなんだ。
まぁ、大学も出て、なんでも揃ってる今の子にはたたき上げの考え方は必要ないかもね。うちの子なんかもそうだよ。もう本当に、わからない。
それも世代だと思うよ。難しいね。私ですら、あぁ、俺おじさんだな。もう若い子にとったら邪魔なだけかなーって思うもの。
だから若い子がどうやってうちで働くことに面白みを感じるかとか、色々考えているんだけどね。
今の子はもう考え方が根本から違うから、なかなかおじさんには良い考えが浮かばなくってね。どうしよう。あはは。“
―ジェネレーションギャップは、世界共通なんですね。
“そうね。会社と共に生きることも楽しいよって若い子にもわかってもらえたら…とは思うけどね。今はそうもいかないくらい色々あるからねぇ。
新しいアイディアも尽きてたりすると、その面白みにも触れられないし。
ただ、いいモノ作ろう!って若い子が立ちあがって会社を使い倒してくれたら嬉しいんだけど、その考えがそもそも古いのかな。そんな子がいるといいけど。”
正直、ここまで聞いても、私にはわからないところが何個かあった。
そして、そんな誠実なサラリーマン社会はもうないんじゃないか。と疑問に思いながらも
目の前でそれを楽しそうに話すこの人は、今現在もそれを実際に体感しているのだから、否定なんて間違ってもできない。
同じ社会なのに、見える世界が違いすぎるのが不思議だった。
ただ、ひとつ言えるのは、
ニッポンのサラリーマンの美しさを初めて誰かから教えてもらったのが、少し嬉しかった。
それが日本人からじゃなかったからこそ、フェアな意見に聞こえて、最後まで聞けたのかもしれない。
そして、これからも製造業に関する質問は、どこに行こうが彼に聞いてしまいそうな気がする。
何を聞いても惜しげも無く知識を教えてくれるって知っているから。
これが、彼の言う信頼とビジネスなら、それが彼の言う“ニッポンのサラリーマン”の真髄なのかもしれない。
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