自由に好きなだけ旅して、満足したらまた真面目に働くから社会復帰させてくれないかしら?
旅好きの人なら、そんな”できたらいいな”の理想があるはず。
ただし、職歴に穴が開いたり、旅をするために仕事をやめた後のことが不安で仕方なくて、なかなか一歩が踏み出せない。
感情と理性は、いつも仲が悪い。
それは、日本人だとか、アジア人だとか関係なく
旅をする世界中の人の頭痛のタネでもありそうだった。
最近、いろんなところに面白そうな旅人がいれば、話しかけて、色々と世間話を繰り返していた。
そこで知ったのは、意外にも、欧米圏の旅人たちも
社会復帰は結構な一大事で、無期限で旅をすると言う決断はそんなに普通じゃないらしい。
今日はそんな、社会復帰にビビる旅人たち6ケース&みんなで話し合ったの?と聞きたくなるくらい共通して語る「死なない論」についてのお話です。
<ケース1>3年間南米を自転車で渡ったニューヨーカーの旅人
自転車で、10ヶ月メキシコを旅して、
その後、計3年間中南米を放浪していたニューヨーク出身のご夫婦に出会った。
旅の資金は夫婦で頑張って仕事で貯めた。
旅の最中に仕事は一切しない、貯金切り崩しタイプの旅人だった。
自転車で渡るメキシコは、どんな美しさも決して逃さない、大地をめぐる旅。
彼らの写真は鮮やかで、写真にうつる彼らと地元の人の表情がどれだけ素敵な旅だったかを物語る。
そんなにゆっくりと広大な中南米を渡るのだから、もちろん3年という月日をたっても旅ができたのは北部のみ。
途中で今までの貯金が限界とのことで、夫婦で社会復帰を決意。
ちなみにご職業は旦那さんはコンサルタント、奥さんは編集とのこと。
それでも、アメリカでの社会復帰が難しそう
アメリカでも職歴をこんなに長い間切らすのは致命傷らしい。
そこで、世界中に履歴書を出しまくって唯一OKだったのがニュージーランドで、何も考えずに飛び出したとのこと。
お金もらえるならどこでもよかった。と笑っていた。
地元大好きニューヨーカーなので、職歴が復活したらニューヨークに帰ることだけを夢見ていまは仕事しているとのこと。
もう一度やりたいけれど、あれだけの旅をするとなるとまた、旅からの社会復帰、定職、旅を繰り返す”10年プラン”になるのはもう覚悟しているのだとか。
3年ぶりの仕事は”まるで地獄だ”と笑っていた。
ただ、貯金を全て旅で使い切ってしまったので、働かなければ死ぬこの状況下ならこの地獄もハッピーよ。今は「少なくとも、死なないから」と言っていた。
<ケース2&3>大学辞めて世界無期限旅行のベルギー人 / フルタイムからセメスター制の仕事にチェンジし、半年旅で半年仕事を数年試みるドイツ人の教師
マレーシア・クアラルンプール。
当時その中でも抜群に自由な旅人が多かったドミトリー、Dorm KLに宿泊する。
ここで会う人は、エクスチェンジ(ドミの受付&掃除する代わりに宿泊費タダ)や長期滞在でのんびりしている筋金入りのバックパッカーばっかり。
旅人たちの背景は様々。
大学をドロップアウトした人、仕事をやめた人
リモートで働いている人、なんか何もかも嫌になって無計画に飛び出しちゃった人
今回お話を聞いたのは、2人。上で言及した、ベルギー人とドイツ人。
ベルギー人は、旅先日銭稼ぎ型。
英語を教えたり、エクスチェンジワークでなんとかやり過ごす。
ドイツ人は、貯金切り崩し型。教師で稼いでから旅に出ている。
「いつでも長旅ができてヨーロッパの人は羨ましいなー」と思っていたけど
本当にできているのか、どうやったらできるのかまでは実は聞いたことがなかった。
イメージだと、帰れば仕事もすんなり決まったり、
休暇への理解があって、休んで好きなだけ旅できる印象だった。
”バカンスが1ヶ月、2ヶ月も出来なくはない”はほんと。
ただ、長旅となるとちょっと違ったようだった。
バルコニーでたまたま飲んでいた旅人たちに
どうやって飛び出したかと、今後の不安をたっぷり聞かせてもらいました。
ひとつだけ、知らなかったこと。
旅先で欧米人に会うと、だいたいみんな自由に旅をしていて
それでもいつでも普通の生活に戻れるから、何も考えずに旅ができているんだと思ってた。
彼らも実はマイノリティ。
戻った後の不安や、それによって起こる”給料やキャリアの遅れの取り返し”はやっぱり無視できるものではないらしい。
日本人だから飛び出すと代償が…。と思っていたけど
別に日本人、アジア人が特別かと言うとそうでもないみたい。ただ、文化的な要素から、楽観的なだけであって状況はそこまで大きく違わなかったことにびっくりした。
”国や社会がそんな人でも受け入れてくれる”のは、ほんの一握りの国だけで、
ここにいた6−7カ国の旅人たちの大半が「いや、ウチの国じゃない」といっていたのにもちょっと笑った。
飛び出した彼らも、母国に帰ればしばらくは社会復帰のためにちょっと昔より悪い条件からやり直しになることも珍しくないとのこと。
ベルギー人の旅人は「うまい話はない。戻ったら全部やり直しさ。だるいなー。」と笑っていました。
彼いわく、ベルギーでも普通の人は社会復帰しても収入も落ちるし、望んでない場所でのスタートも良くある。
中には、社会復帰できないぞと脅されることもちらほら。
へぇ、ヨーロッパでもそうなの?と彼にに聞くと
「当たり前だ。少なくとも北部のベルギーでこんなことやっている人はネットで探さない限りいない。就職?悪影響だよ。」と笑っていた。
「お前勇気あるなー!」って言われたけど、この勇気が世間の理想の大人になるプラスになるかと言われればNoだ。ときっぱり。
「お隣ドイツ人は結構自由だけど」と彼がいうと
横のドイツ人が「そんなことはない。旅と引き換えに俺は出世、家、車は諦めた」と口を挟む。
そんなドイツ人の彼も、フルタイムで教師をしていたけれど
結局仕事が忙しく、何ヶ月も自分のペースで旅ができることは不可能だと思い
33歳にして、昇進や今後のキャリアパスは一旦諦めて、数ヶ月間の非常勤講師暮らしへとシフトチェンジしたよう。
彼もまた、戻ってきてから社会復帰までは結構苦労するみたい。
今は非常勤で適当にやっているけど、ちゃんと戻った時に全部元どおりになるかと言われれば、”非常に挑戦的”らしい。
そして一度復帰すれば、”もう一度旅をやる”のには、また5年くらいかけてやり直し。
「帰っても”死なないから”出てきた、馬鹿にはされるかもしれないけれどね。それもラッキーだよ。本当に大切なものが良くわかる。」
ふたりともそう言うと、日本だって帰って非常勤からキャリアのやり直しをやってもしんどいけど死なないでしょ?一緒なんじゃないかな。と笑っていた。
社会のプレッシャーを無視するこころの問題だ。って。
(だとしてもドイツと日本は全然違うぞ。と言いたいところだけれど…)
中には、「帰ったら、レールから外れたことにキレる親父をなだめる所から再出発」なんて人もいた。
ヨーロッパってライフスタイルの自由があって旅しても誰も気にしないんだと思ってた。
と言うと「個人は誰も気にしないけど、会社や社会が気にしないのはドイツと北欧くらいだ」とその旅人がが言った。
「いや、だからドイツもそんなことないってば」とドイツ人がいちいち訂正を入れていた。
<ケース4>期間工と旅を繰り返すニュージーランド人
オークランド空港で、たまたま隣の席に座ったお兄さんは
半年働き、半年南米、また半年働き、今度は半年中東…と旅するダニーデン出身のニュージーランド人。
仕事は山や谷の整備。夏の期間限定の作業員で、刈り取った木やら岩やらを掃除する体力勝負。
夏を体力勝負で過ごしたご褒美に、冬から逃げて旅行を繰り返しているらしい。
要するに、彼も期間工で稼いで旅をする貯金切り崩し型。
今回でこれは3度目。体力勝負の仕事なので、来年もこうなると考えるだけで旅が”不味くなる”からその話はやめてくれ。とのこと。
「ずっとこのライフスタイルは無理だよ。もう無理ってなったらそこから考える」
と言っていたので、そう言ったライフスタイルはすごく素敵だと思うよ。羨ましい。と言うと
「ただ、日本でもこんなん簡単でしょ?なんでニュージーランドが羨ましいの?』
いや、そう言うことやると色々周りがうるさいからさ
「え。周りの大人がうるさいって?HAHAHA Fu** it! そんなん気にしてたら俺だって毎回やり直してるのよ?あははー。…ってまぁ、旅の終わりは俺もいつも嫌な気分になるから気持ちはわからなくはない」とのこと。
それでも続ける理由は、「まぁ、死なないし。」と言っていた。
また出た。死なないから理論。
<ケース5>考えすぎるのやめました。IT屋さんのイタリア人
より良い仕事、キャリア、お給料を夢見て母国を去り、一生懸命勉強して一生懸命10年以上働いて、帰省以外の旅もほぼせずに過ごしてきたというイタリア人のIT屋さん。
このまま40歳のつまらんオッサンになるのは嫌だと突然思い立ち、
無期限の旅に出るためつい最近仕事を辞めたとのこと。もちろん彼も貯金切り崩し型。
「俺の業界でしばらく仕事離れるって、なかなか恐ろしいことよ。今は社会復帰の話はやめて」
と、私から聞く前に封じ込まれる。
「もうね、どう生きてても何年後とか予想つかないから、4ヶ月以上先は考えないことにしたの。だから今回の旅も4ヶ月のプランはあるけどそれ以降は後で考える。いつ帰るかもわからない。その後なんて余計わからないの。」
「このままつまらんオッサンになってイタリアとニュージーランドを往復するだけも人生もったいないじゃない、どうせ旅が終わって”死ぬ訳じゃない”んだし。」
「今はね、イタリアもスペインもラテンは景気が悪いから、定職離れると遠く離れた親戚や友人ですら驚くよ。まぁいいのよ、言わせておけば。」
そう言うと、彼は無期限の旅へと突入してゆきました。
<おまけ>全部捨てちゃいました。台湾人女子一人旅
「ニュージーランドに来て、自分の国の仕事のプレッシャーがバカバカしくなって来たからニュージーランドのワークビザが切れると同時に無期限旅行して来ますー」
珍しく、アジアからのエントリーは、
台湾で働くことに疲れて、ニュージーランドに転職して、2年のビザが満了したのでこのまま無期限旅して来ます。と言う28歳の女の子。
「同じアジア人、世間のいろんなプレッシャーはわかるでしょう?
でもね、もういいの。みんな”死なないし”って言ってて、その通りだと思ったから。」
「帰ったら台湾で復帰できるといいけど、日本人ならわかるでしょう?多分うちの国じゃ無理だから、どっかで寄り道して仕事して帰らないと」
と、死なない理論に感化された彼女はそのまま飛び出す準備を楽しそうにしています。
***
旅人の「今後どうするの!?」の答えは満場一致で
「わからないけど、死なないから」
でした。
ただ、全員言うのが、
「そこまでの代償を払ってでも、やる価値があると思った。」
ちゃんといたーい代償が後で待っているけど、その代償を払う価値があるくらい楽しんだから文句も言えないよね。と苦笑いします。
なんだか、○○人だから旅ができるとかではなく
誰がいち早く死なない理論を実行したか。のようです。
欧米人も社会復帰にはビビっている。
意外な事実だったので、ちょっと小話としてシェアしちゃいました。
p.s.そこに乗っかるか?と言う質問には「今じゃない」とだけ言っておきます。
コメント