医者を羨む前に、医者と同じくらい勉強してみなよ。ートルコのお医者さんから、学生の君へ。

学生バックパッカーの頃、一人のお医者さんに出会いました。

トルコ、ワン。

イランとの国境の町。彼曰く、トルコの最果て。

外はマイナス15度。

エンジンオイルも凍る。

寒さはすごく厳しいけど、

優しい人たちと、甘いチャイがあったかい。

イランからの越境を終えて、旅も終盤。

宿代も十分に持っていなかったので、カウチサーフィンでその日の宿泊先を探し、流れ着いたのがこの家。

こんな最果ての町で、まずカウチサーフィンで旅人を受け入れている人がいるなんてことに驚き。

彼いわく、イランの越境組がなんだかんだしょっちゅう来るんだとか。

”国の奨学金で医学部に入ったモンだから、こういう僻地に飛ぶのが条件でね。”

”元旅人として、たまに旅人に会わないと頭がおかしくなる。だから基本的にこの家は解放してる。”

そんな彼は、当時28歳。

昔は東南アジアでやんちゃなこともいっぱいしていたらしい。

ただ、今は勤務の義務があるので、しばらく旅もおあずけ。

極寒の僻地で、旅はおろか外出も億劫なので、

冬は旅人とのビールが唯一の楽しみなんだとか。

当時まだ学生だった私は、
返済義務の僻地勤務、そして24時間臨戦体制という彼の勤務スタイルにただただ驚く。

2日お邪魔したうちの、1日目はふたりで深夜1時までビールを飲んでいたのに、急患の連絡が入ったとそのまま病院へ向かって行った。

え、酒気帯び執刀大丈夫なの?と聞くと

”大丈夫。俺はチャンバーっていうカプセルの専門医だから、何も切らない、何も射たない。”とそのままタクシーに乗って行った。

具体的な数ははっきり覚えていないけれど、

2人でこれくらいは空けていた。

それでも彼は、急患の手当に向かって行った。

2日目。その勤務スタイルを”とても大変だ”と思った私は
仕事について質問してみた。

僻地でひとり24時間臨戦体制って、めっちゃ辛いんじゃないの?って。

”まぁ、医者ですから。”と言うと、

お酒も入っていたので、彼は色々と大人になって学んだことをシェアしてくれた。

”ここで、大変だよ俺は辛いよ、って言うやつがほとんどでね。
ただ、歳をとるに連れて、知らないことをどんどん知っていく訳じゃない。新しい壁にぶつかるって言うか。

それって子供の頃からずっとやっていることじゃん。

ただ、大人になると急にみんないまの俺いちばん苦しい。みたいになるの、なんか違うと思ってさ。”

”真面目な話するよ?メモとる?”と言うもんだから

本当にメモを取ると、勢いよく笑い出す。

”仕事も、私生活も、家族…奧さんとか子供とかね。責任は確かに増えるけど。

知らないことにぶつかって、経験を積み上げることに変わりはないのに
…なんて言うんだろう。みんないつか急に文句を言わないと、愚痴を言わないと。みたいな感覚に飲まれる人が多すぎると思うんだよね。

確かに問題はどんどん難しくなるけどさ。
それをレベルアップだ。って喜ぶ奴が、働き出すと急に減る。”

ビールもタバコも、何個開けたか覚えていない。

ただ、メモのおかげもあって、彼が何を話したかははっきり覚えている。

ただ、これから働き出すことを恐れていた当時学生の私は

それでも、学生の頃のレベルアップとは違う気がして、結構怖いんだよね。と言うと

”学生の頃は、こんな真冬でもウォッカでも飲んでパーティーしてなきゃ人生終わりだって思ってたけど

ある時急に来るんだよね。家に引きこもってのんびり飲むだけてそれ以上に楽しくなる時。歳とったらわかるよ。”

”まぁ、そんなに怖がらないこと。ちゃんとレベルアップを積めば、どこでも意外と生きていけるから。”

いや、そんな、私にはなんもスキルないし。
文系だし。これから何か手に職がつくわけでもないし

医者みたいにきらびやかなら確かにいつでもどこでも大成功だと思うけど。と言うと

”あー、それ、すっごいよく言われる。
医者はいいよな。とか、お前は医者だからそんなのんびり構えていられるんだ。とか。

ただね、ひとつ言いたいのが、

医者を羨むのもいいけど、その前に今やってることでも好きなことでもなんでもいいからさ、
医者と同じくらい勉強してみなよ。絶対医者より成功するから。”

”医者ってね。医学部に入るまでのテストで死ぬほど勉強して

そっから6年間、大学でさらに死ぬほど勉強して

やっと、そこから研修ができる権利が初めてもらえるの。そこまでやってスタート。

ってことは、そこまでやった奴が100%の医者とさ、そこまでやらない他のこと、医者と同じ量勉強して成功できる確率って、絶対他のことじゃん。”

”まぁ、ラッキーって言えばラッキーだよね。俺らは強制だったから。

ただ、時間がかかっても、これから仕事でやることでも、なんなら旅のことでもいいよ。

一旦、医者くらいの量勉強してみて。絶対うまくいくから。”

”まぁ、怖がらなければいいだけだよ。
大丈夫。働いて歳取るのも悪くないよ。何年かすればわかるよ。

まだ君には早い。歳とったら答え合わせにおいで。多分引っ越しているけど、カウチサーフィンはやってると思うから。”

そう言うと、この話はそこでおしまい。

突然、彼は学生時代、タイで”やらかした”昔話を始める。

かっこいいこと言うくせに、ロクでもない話もお好き。

こんなに飲める東洋人は初めて見たよって笑われたけど

こんなに飲めるムスリム、私は初めて見たよ。

そんな出会いから、そろそろ5年。

もう、ほとんど当時の彼の歳に近づいてしまった。

医者ほど勉強してないけれど、

彼の言っていたこと、前よりちょっとは理解できたかな。

ひとつ言えるのは、確かに働いて歳をとるのも悪くないし、
いい仲間がいれば華やかなパーティーもいらないね。

その答え合わせだけはできたよ。

現在彼は、ワンからもうちょっと西の場所へと引っ越したみたい。

まだ覚えてくれている自信はは全くないけれど、またいつかお話しできるかな。

その時は、答え合わせ以上に、さらにレベルアップした彼のお話を楽しみにしたい。

※この記事は、2014年の前身ブログにリライト、追記を加えたものです。

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